台風や地震のニュースを見るたびに、「停電になったら、レンタルしている介護ベッドはどうなるんだろう」「避難するとき、車いすごと動けるんだろうか」と不安になる方は多いのではないでしょうか。福祉用具は電気やご本人の体力を前提に使うものが多く、災害時は普段どおりに使えなくなる場面が出てきます。先に、要点をまとめます。
- 背上げ・高さ調整ができる特殊寝台(介護ベッド)の多くは、停電時にハンドルなどで手動操作に切り替えられる仕組みを備えている
- 車いす・歩行器・スロープなど電気を使わない用具は、置き場所と持ち出し経路を事前に決めておくことが最大の備えになる
- 台風接近時は、契約している福祉用具事業所の休業予定と緊急連絡先を早めに確認しておくと、いざというときに慌てずに済む
ただし、「手動操作に切り替えられる」といっても機種によって手順は異なります。後半で、契約時の書類のどこを確認すればよいかを説明します。
台風は地震と違い、進路や接近時刻がある程度事前に予測できる災害です。この「予測できる」という特性を活かせるかどうかが、実際の被害の受け方を大きく左右します。地震のような予測不可能な災害への備えは日頃からの準備が中心になりますが、台風の場合は天気予報で接近が報じられ始めてから数日の間に、用具ごとの具体的な対応を済ませておくという時間差を活かした備え方ができます。
停電になったら、介護ベッドはどうなる?
多くの特殊寝台(介護ベッド)には、停電時に手動で背上げ・脚上げやベッドの高さを調整できる仕組みが用意されています。
特殊寝台は背上げ・脚上げ・高さ調整をモーターで動かす構造のため、停電するとボタン操作ができなくなります。ただし、多くの機種には、停電時用のハンドルを差し込んで手動で動かしたり、緊急時の解除レバーで背もたれを下ろしたりできる仕組みが備わっています(日本福祉用具・生活支援用具協会 停電時に対する備え)。停電が予想される段階で、背上げ・脚上げをいったん水平に戻し、昇降機能があるベッドは乗り降りしやすい高さに合わせたうえで電源プラグを抜いておくと、復電時の誤作動も防ぎやすくなります。
手動操作の具体的な手順(ハンドルの有無、解除レバーの位置など)は機種によって異なります。福祉用具貸与では、納品時に操作方法の説明を受ける仕組みになっているため、「停電のときはどうすればよいか」をその場で福祉用具専門相談員に確認しておくと安心です。すでに使い始めている場合も、次回のモニタリング訪問(モニタリング訪問の記事)で確認し直すことができます。
停電時に特に確認しておきたいのは、次の3つの状態です。
| 確認する状態 | 台風接近時にしておくこと | 理由 |
|---|---|---|
| 背上げ・脚上げの角度 | 水平に戻しておく | 停電中に中途半端な角度で固定されたままだと、手動操作に切り替える手間が増える |
| ベッドの高さ | 乗り降りしやすい低い位置に合わせる | 停電中は昇降操作ができないため、そのままの高さで数時間〜数日過ごすことになりやすい |
| 電源プラグ | 一度抜いておく | 復電時の誤作動や、瞬間的な電圧変化による故障を避けるため |
これらは特別な工具や専門知識がなくてもできる備えで、台風のように接近が事前にわかる災害では、天気予報で「今夜〜明日にかけて接近」と報じられた時点で済ませておくのが現実的なタイミングです。
車いすや歩行器は、災害時にどう備える?
電気を使わない用具は「壊れる不安」より「必要なときに手が届かない」不安の方が大きいため、置き場所と持ち出し経路を事前に決めておくことが備えの中心になります。
車いす、歩行器、歩行補助つえ、スロープといった用具は停電の影響を受けません。その一方で、地震で家具が倒れて通路をふさいだり、避難のために夜間・慌ただしい状況で持ち出そうとしたりすると、「いつもの場所にあるはずなのに出せない」という事態が起こり得ます。備えとして次の点を確認しておくとよいでしょう。
- 車いすや歩行器を、就寝時の動線からすぐに使える位置に置いているか(寝室の入口をふさぐ配置になっていないか)
- スロープを使う段差の周辺に、避難の妨げになる荷物を置いていないか
- 夜間に停電した場合でも、用具の位置が分かるよう懐中電灯や足元灯を近くに置いているか
- 車いす移動が難しい階段しかない住居の場合、避難時に誰が付き添うかを家族内で決めているか
福祉用具そのものに「災害対応モデル」のような特別な位置づけがあるわけではありません。日ごろ使っている用具を、非常時にもそのまま使える状態にしておく、という発想で備えるのが現実的です。
実際によくあるのは、「車いすはあるが、玄関までの通路に台風前に室内へ入れた植木鉢や荷物が積まれていて、いざというときに通れなかった」というケースです。用具そのものを備えるだけでなく、その用具が通る動線を含めて日ごろから点検しておくことが、電気を使わない用具の備えでは特に重要になります。
福祉避難所とは?いつ利用できる?
指定避難所での生活が難しい高齢者・障害のある方などを対象に、自治体があらかじめ指定する避難施設で、多くは事前登録や自治体からの案内を経て利用します。
福祉避難所は、老人福祉施設や特別支援学校、コミュニティセンターなどのバリアフリー対応施設が自治体によって指定され、一般の指定避難所での生活が困難な方を受け入れる仕組みです。多くの自治体では、平常時からの登録制度や、まず指定避難所に避難したうえで自治体が必要性を判断して案内する運用をとっています。福祉用具貸与を利用している方が対象になるとは限らず、要介護度や医療的なケアの必要性など自治体ごとの基準で判断されるため、お住まいの自治体の防災担当課・福祉担当課に、対象になるかどうかを平常時に確認しておくことをおすすめします。
ケアマネジャーが災害時の対応方針をケアプランに位置づけている場合もあるため、福祉避難所の利用可能性についてはケアマネジャーに相談するのも一つの方法です。
福祉避難所は、指定避難所とは別に開設される施設のため、多くの自治体では「まず指定避難所に避難し、そこで自治体職員が必要性を判断してから福祉避難所へ案内する」という二段階の流れをとっています。台風接近時にいきなり福祉避難所へ向かうのではなく、お住まいの自治体がどちらの流れを採用しているかを、平常時に確認しておくことが重要です。福祉用具(車いすや歩行器など)を使っている方が必ず対象になるわけではなく、要介護度や医療的ケアの必要性など自治体ごとの基準で判断される点も、事前に把握しておきたいポイントです。
台風接近時、福祉用具の事業所には何を確認すればいい?
台風の接近が予想される時点で、事業所の休業予定と緊急連絡先、訪問予定の変更有無を確認しておくと、直前になって慌てずに済みます。
台風は地震と違い、接近をある程度予測できる災害です。台風が近づいているとわかった時点で、次の3点を事業所に確認しておくと安心です。
- 台風の影響でモニタリング訪問や納品予定が延期・変更になる可能性があるか
- 休業や営業時間短縮の予定があるか、あるとすればその間の緊急連絡先はどこか
- 停電・浸水などで用具に不具合が出た場合、どこに連絡すればよいか
お盆休みなど長期休業中の連絡体制については福祉用具が壊れたら?長期休業中の連絡先の確認と備えでも触れていますが、福祉用具貸与・特定福祉用具販売の指定事業者は、緊急時の対応体制を整えることが運営基準で求められています。台風のように事前に予測できる災害では、直前に慌てて連絡するより、天気予報で進路が報じられ始めた段階で早めに確認の連絡を入れておく方が、事業所側も対応しやすくなります。
特に大型の台風が接近する時期は、同じ地域の利用者からの問い合わせが事業所に集中しやすくなります。台風が接近してから連絡しようとすると電話がつながりにくいこともあるため、進路予報の段階で早めに連絡しておくことは、事業所側の対応をスムーズにする意味でも有効です。
電動用具のバッテリーはどう備える?
電動車いすや電動リフトなど充電式の用具は、台風接近が予想される時点で満充電にしておくことが、停電時の備えとして最も確実です。
電動車いすや、一部の移動用リフトのように充電池で動く用具は、停電中でも充電済みのバッテリーがあれば一定時間は動かせます。ただし、稼働時間はモデルや使用状況によって大きく異なり、「何時間もつか」を正確に把握していない方も少なくありません。台風接近など停電が予想される段階で、次の行動を取っておくと安心です。
- 用具を満充電にしておく
- 予備バッテリーがあれば、その充電状況もあわせて確認する
- バッテリーの持続時間の目安を、事業所や取扱説明書で事前に確認しておく
長時間の停電が想定される地域では、バッテリー切れ後にどう過ごすか(車いすなら手動での介助移動に切り替える、リフトなら家族の介助で代替するなど)を、家族内やケアマネジャーとあらかじめ話し合っておくと、いざというときの判断が早くなります。
電動車いすは自走用の手動車いすと違い、バッテリーが切れると自力での移動が難しくなる場合があります。日頃から電動車いすのみで生活している方は、短時間でも構わないので、非常時に介助してもらえる家族や近隣の協力者を事前に決めておくと、停電が長引いた場合の不安を減らせます。
なお、電動用具の予備バッテリーを新たに購入する場合、特定福祉用具販売の対象になるかどうかは品目や契約内容によって異なります。「災害対策として追加で用意したい」という相談自体は事業所にできますが、区分支給限度額の範囲に収まるかどうかはケアマネジャーとの確認が必要になるため、思い立ったタイミングで早めに相談しておくと台風シーズンに間に合いやすくなります。
備えを先延ばしにすると、どんな失敗につながりやすい?
「まだ大丈夫だろう」と後回しにした結果、いざ台風が接近してから慌てて確認し、必要な対応が間に合わなかったというケースが実際の相談でよく聞かれます。
現場でよく聞かれる、備えを先延ばしにした結果の失敗パターンには次のようなものがあります。
- 停電時の操作方法を確認しないまま停電を迎えたケース: 契約時に説明を受けたはずの手動操作の手順を忘れてしまい、実際に停電が起きたときに取扱説明書を探すところから始めることになった。台風接近が報じられた段階で一度手順を確認し直しておけば、いざというときに落ち着いて対応できた
- 通路の荷物に気づかなかったケース: 台風に備えて室内に運び込んだ植木鉢や荷物が車いすの通路をふさいでいることに、避難が必要になった当日まで気づかなかった。日頃から車いすの通り道を意識していれば防げた事態だった
- 事業所の休業予定を確認していなかったケース: 台風接近中に用具の不具合が起きたが、事業所の休業予定を知らず、緊急連絡先も控えていなかったため、連絡がつくまで時間がかかった
これらに共通するのは、「災害が起きてから対応を考える」姿勢です。台風は地震と違って接近をある程度予測できる災害のため、天気予報で進路が報じられ始めた段階から備えを始められるという点が、他の災害への備えとの大きな違いです。逆にいえば、台風シーズンに毎回同じ確認を繰り返すことが、いざというときに慌てない一番の近道になります。
電動用具と非電動用具、備え方はどう違う?
電動用具は「充電」と「停電時の操作手順の確認」が中心になり、非電動用具は「置き場所」と「持ち出し経路の確保」が中心になります。
ここまでの内容を整理すると、福祉用具の災害への備え方は、電気を使うかどうかで大きく2つに分かれます。
| 観点 | 電動用具(特殊寝台・電動車いす・電動リフト等) | 非電動用具(車いす・歩行器・スロープ・杖等) |
|---|---|---|
| 台風接近時にすること | 満充電にする、背上げ・高さを戻す、電源プラグを抜く | 通路の荷物を片付け、持ち出しやすい位置に置く |
| 停電中の懸念 | 操作ができなくなる、バッテリー切れ | 特に影響を受けない |
| 事前に確認すること | 手動操作の手順、バッテリー持続時間の目安 | 避難時の持ち出し優先順位、付き添う人の分担 |
| 家族で話し合っておくこと | バッテリー切れ後の代替手段(介助移動への切り替え等) | 車いす移動が難しい住居構造の場合の避難経路 |
この表からも分かるとおり、どちらのタイプの用具を使っているかによって、台風接近時に確認すべき優先順位が変わります。ご自宅で使っている用具が電動・非電動のどちらに当てはまるか分からない場合は、契約時の重要事項説明書か、福祉用具専門相談員への確認で把握しておくと、この記事の内容をそのまま自宅の備えに当てはめやすくなります。複数の品目を併用しているご家庭では、品目ごとにこの表を当てはめて、確認すべき項目をひとつずつチェックしていくと抜け漏れを防ぎやすくなります。
この記事で持ち帰れること
- 特殊寝台の多くは停電時に手動操作へ切り替えられる仕組みがあり、台風接近時は水平・低い位置に戻して電源を抜いておくと安心
- 車いすや歩行器などの非電動用具は、置き場所と持ち出し経路を事前に決めておくことが備えの中心
- 福祉避難所や事業所の緊急連絡先は、災害が迫ってからでなく平常時に確認しておく
災害への備えは、特別な準備を新たに買い足すことだけを指すのではありません。今使っている福祉用具の「停電時の操作方法」と「事業所の緊急連絡先」を、今日、契約時にもらった重要事項説明書やしおりを1枚めくって確認しておくだけでも、備えとしての意味は大きく変わります。
営業エリアや取扱い品目、緊急時の対応体制は事業所によって差があります。台風シーズンを前に事業所を見直したい、あるいはこれから福祉用具を検討するという場合は、介護ようひんさーちの事業所検索から、営業エリアや指定の種類で事業所を絞り込んで、直接問い合わせて確認してみてください。
よくある質問
Q. 停電中に介護ベッドの背上げ位置を変えても大丈夫ですか? A. 機種によって手動操作の可否や手順が異なります。契約時に配布された取扱説明書を確認するか、福祉用具専門相談員や事業所に問い合わせてから操作してください。
Q. 福祉避難所はどこにあるか、どうやって調べればいいですか? A. お住まいの市区町村の防災担当課・福祉担当課のホームページや窓口で、指定状況と利用条件を確認できます。多くの自治体で平常時からの登録制度が案内されています。
Q. 停電が長引いた場合、レンタル中の電動用具を交換してもらえますか? A. 状況によって対応は異なります。まずは契約している事業所に連絡し、代替品の貸し出しが可能かどうかを相談してください。
Q. 避難するときは車いすなどの福祉用具を必ず持って行くべきですか? A. 避難の緊急度や移動手段によります。命の安全が最優先のため、状況によっては用具を置いて避難する判断も必要です。日ごろから、避難時に持ち出す優先順位を家族内で話し合っておくと判断しやすくなります。

