暑さが本格的になるこの時期、在宅で介護をしているご家族の頭をよぎるのが「熱中症」の不安ではないでしょうか。ご本人が「まだ大丈夫」と言っても、実際には体温調節の力が落ちていて、自覚のないまま体調を崩してしまうことがあります。特に高齢の方は、汗をかきにくくなったり、暑さそのものを感じにくくなったりするため、家族や周囲が客観的に室内環境を確認する役割を担う必要があります。

先に、要点をまとめます。

  • 熱中症で救急搬送される高齢者の半数以上は、屋外ではなく「室内」で発症している
  • 福祉用具そのものに治療効果はないが、室温や体調の変化に気づく仕組みを作ることはできる
  • 見守り機器・温湿度計・移動をラクにする用具を組み合わせることで、日々の負担を減らしながら異変への気づきを早められる

ただし、見守り機器を導入すれば安心、というわけではありません。機器はあくまで「気づくきっかけ」であり、実際に室温を下げたり水分を届けたりするのは人の行動です。この点は後半で改めて触れます。

高齢者の熱中症は、なぜ「室内」で多いのか?

体温調節の力が落ちることと、暑さへの自覚が薄れることが重なるためです。

環境省・厚生労働省の熱中症関連の呼びかけでは、高齢者の熱中症の多くが屋内で発生していることが繰り返し示されています。加齢によって汗腺の働きや血流の調整力が低下すると、体にこもった熱をうまく逃がせなくなります。さらに暑さやのどの渇きを感じるセンサーそのものも鈍くなるため、「エアコンをつけるほどではない」「まだ喉は渇いていない」という本人の申告が、実際の体の状態とずれてしまうことが少なくありません。

ご本人の体感だけに頼らず、室温計・湿度計といった客観的な指標を目につく場所に置いておくことが、最初の一歩になります。厚生労働省・環境省は室温28度を超えないよう管理することを呼びかけています。エアコンの使用をためらう方には、「もったいないから」ではなく「今日は何度だから」という数字を根拠に声をかけると、納得してもらいやすくなります。

熱中症警戒アラートが出たら、家族は何をすればいい?

エアコンの使用状況と水分摂取を、いつもより意識して確認する日、と捉えるのが実務的です。

熱中症特別警戒アラートが発令されるような日は、自治体によって高齢者への安否確認が呼びかけられる場面も出てきています。在宅介護をしているご家庭では、こうした発令のタイミングを「今日は電話やメッセージで一声かける日」の目安にするとよいでしょう。離れて暮らすご家族の場合、訪問頻度には限りがあります。だからこそ、見守り機器やセンサー類が、日々の「気づき」を補う役割を果たします。

たとえば人感センサー付きの見守り機器は、居室の温度や動きの変化をご家族のスマートフォンに知らせてくれるものがあります。カメラで常時ご本人の様子を映すタイプに抵抗がある場合でも、温度・湿度・人の動きだけを検知するタイプであれば、プライバシーへの配慮をしながら導入しやすくなります。

こうした機器は市販品を家電量販店等で購入することもできますが、要介護度や住環境によっては、福祉用具貸与の対象品目である「認知症老人徘徊感知機器」など、関連する用具が介護保険の枠組みで利用できる場合もあります。対象になるかどうかは品目・要介護度によって異なるため、ケアマネジャーや福祉用具専門相談員に相談しながら整理するのが確実です。

移動の負担を減らすことも、熱中症対策の一部になる?

なります。移動や姿勢保持にかかる体力の消耗を減らすことは、体温上昇や脱水のリスクを間接的に下げる工夫のひとつです。

熱中症対策というと冷房や水分補給がまず思い浮かびますが、見落とされがちなのが「移動そのものの負担」です。トイレや洗面所までの移動、立ち座りの動作は、それだけで体力を消耗し、発汗量も増えます。真夏にこうした移動を何度も繰り返すことは、体調管理の観点からも決して小さな負担ではありません。

たとえば、居室からトイレまでの動線に置き型の手すりを設置したり、ベッドから車いすへの移乗の負担を軽くしたりすることは、移動にかかる時間と体力の消耗を減らすことにつながります。歩行が不安定な時期に無理をして自力での移動を続けると、転倒のリスクとあわせて、体力の消耗も大きくなりがちです。福祉用具は「できることを増やす」だけでなく、「できることを、より少ない負担でできるようにする」役割も持っています。

(ここで一つ、後半で説明する注意点があります。夏場は用具の使い方そのものにも季節特有の確認ポイントがあるので、後ほど詳しく触れます。)

手すりやスロープ、歩行器は要支援1から介護保険の対象になる品目で、工事をともなわない置き型タイプであれば設置のハードルも比較的低いのが特徴です。ご本人の動線や困りごとに合わせた品目の選び方は、手すり・スロープ・歩行器の選び方ガイドで詳しく整理しています。

特殊寝台(介護ベッド)は、夏場の体調管理にどう関わる?

背上げ機能や高さ調整によって、起き上がりや体位変換の負担を減らし、こまめな水分補給や換気をしやすくする効果が期待できます。

一日の大半をベッドで過ごす方の場合、特殊寝台の背上げ機能を使って上体を起こす姿勢を作りやすくしておくことは、水分を摂る際にも、風通しを感じてもらう際にも役立ちます。寝たきりに近い状態が続くと、ベッド周りの熱がこもりやすくなることもあるため、扇風機やサーキュレーターで空気の流れを作りつつ、直接体に風が当たりすぎないよう調整することも大切です。

特殊寝台は要介護2以上を中心に貸与対象となる品目で、要支援1・2や要介護1では原則として対象外となりますが、一定の状態像に該当する場合は例外的に利用できることがあります。ご自身の要介護度で対象になるかどうかは、担当のケアマネジャーに確認するのが確実です。品目ごとの対象範囲は貸与13種目と販売対象品目の整理ガイドでも解説しています。

見守り機器は介護保険レンタルと市販購入、どちらで揃えればいい?

対象品目に該当し要介護度の条件を満たすなら介護保険レンタルが検討しやすく、該当しない場合や気軽に試したい場合は市販購入が選択肢になります。

見守り機器と一口に言っても、介護保険の対象になるものと、家電量販店やインターネット通販で購入する市販品とでは、性格が異なります。両者の違いを整理すると、次のようになります。

  • 介護保険レンタル(福祉用具貸与)の対象になり得るもの: 認知症老人徘徊感知機器など、指定の品目に該当し、要介護度の条件を満たす場合。自己負担は1〜3割で、状態の変化に応じた交換や、福祉用具専門相談員による定期的な確認がついてくる。区分支給限度額の枠内での利用となる。
  • 市販購入(介護保険対象外): 家電量販店やインターネット通販で販売されている温湿度計付きの見守り家電、人感センサー、スマートフォン連携の通知機器など。品目の制限や要介護度の条件はなく、必要なタイミングで自由に導入できる一方、購入費用は全額自己負担で、交換や調整のサポートも基本的には自分たちで行う。

「まず市販品で様子を見て、本格的な見守り体制が必要になったら介護保険の対象品目を検討する」という順番で考えているご家庭も少なくありません。どちらが向いているかは、ご本人の要介護度、住環境、ご家族の訪問頻度によって変わるため、判断に迷う場合はケアマネジャーや福祉用具専門相談員に相談しながら整理するのがおすすめです。

介護保険レンタルと市販購入の見守り機器を、費用負担・対象条件・導入後サポートの3項目で比較した図。介護保険レンタルは自己負担1〜3割で対象品目の条件があり相談員のサポートが付く一方、市販購入は全額自己負担だが品目の制限なく導入できる

熱中症対策で、実際によくあるつまずきは?

「機器を導入して終わり」にしてしまい、その後の運用(誰が通知を確認するか、電池切れの管理など)が決まっていないケースが目立ちます。

見守り機器や福祉用具の導入自体は、事業所に相談すれば比較的スムーズに進みます。つまずきやすいのは、その後の「運用」の部分です。実際に起こりやすい状況を挙げると、次のようなものがあります。

  • 見守り機器の通知先スマートフォンをご家族の誰か一人に設定したものの、その方が仕事で通知に気づけない時間帯が多く、結果的に機能していなかった
  • センサー機器の電池切れに気づかず、数週間気づいたら電源が入っていなかった
  • エアコンの設定温度をご本人が勝手に下げてしまい(暑さを感じにくいため逆に「寒い」と感じることもある)、結局こまめな声かけが必要だった
  • 特殊寝台の背上げ角度を一度設定した後、体調の変化に合わせて見直す機会がないまま数ヶ月が経過していた

こうしたつまずきの多くは、機器そのものの問題ではなく「導入した後、誰がどう見るか」を決めていないことが原因です。複数のご家族で介護に関わっている場合は、通知の確認担当を分担したり、定期的に電池残量やセンサーの動作を確認する日を決めておいたりすると、こうした抜け漏れを防ぎやすくなります。導入時に福祉用具専門相談員へ、運用面の相談もあわせてしておくとよいでしょう。

夏場ならではの、福祉用具の使い方の注意点は?

汗や湿気による用具の劣化・かぶれを防ぐため、通気性やお手入れの頻度を見直す時期でもあります。

先ほど触れた「後半で説明する注意点」がこれにあたります。夏場は汗の量が増えるため、車いすのクッションや特殊寝台のマットレス、体位変換に使う用具などが、湿気やムレの影響を受けやすくなります。長時間同じ姿勢でいることによる床ずれ(褥瘡)のリスクは、汗による皮膚の状態悪化と重なると、他の季節より高まることがあります。

対策として難しいことをする必要はありません。日中、可能な範囲でクッションやマットレスの表面を風に当てる、皮膚と用具が触れる部分をこまめに拭く、といった基本的なケアの頻度を、夏場は少し高めに意識するだけで変わってきます。床ずれ予防に関する用具の選び方や体位変換の考え方は、既存のガイド群でも取り上げているので、気になる場合はケアマネジャーや福祉用具専門相談員に相談しながら見直してみてください。

レンタルしている用具に汚れや傷みが目立つ場合は、我慢せずに事業所へ相談して構いません。福祉用具貸与では、状態の変化や用具の劣化に応じて商品を交換してもらえる仕組みがあります。事業所選びの際に衛生管理や消毒の体制を確認しておきたい方は、事業所の衛生管理・消毒体制の確認ポイントも参考になります。

この夏、福祉用具の見直しはどう進めればいい?

まずは現在使っている用具が、今の体調・室内環境に合っているかをケアマネジャーと一緒に確認するところから始めます。

福祉用具は一度導入したら終わりではなく、季節や体調の変化に合わせて見直していくものです。特に夏は、冬場に選んだ用具の通気性や、室温管理との組み合わせ方を再点検するのに適したタイミングといえます。「今のままで大丈夫か」を漠然と考えるより、次の3点を担当のケアマネジャーや福祉用具専門相談員に具体的に聞いてみると、話が早く進みます。

  1. 今の要介護度で、見守り機器や特殊寝台の対象範囲は変わっていないか
  2. 汗や湿気によるムレ・床ずれのリスクに対して、用具の追加や交換が必要か
  3. 熱中症警戒アラートが出た日に、家族としてどう連携して確認するか

福祉用具貸与を利用中であれば、区分支給限度額の残り枠によって、見守り機器などを追加できるかどうかも変わってきます。枠の考え方については区分支給限度額の仕組みガイドで整理しているので、追加を検討する際の目安にしてください。

なお、福祉用具の見直しが必要になるのは季節の変わり目だけではありません。たとえば入院・退院のタイミングも、生活環境が大きく変わるため用具を見直す代表的な機会です。この夏、退院を控えているご家族がいる場合は、退院してすぐ困らないための福祉用具準備の記事もあわせてご覧ください。

この記事で持ち帰れること

  • 高齢者の熱中症は屋内発症が多く、体感だけに頼らず室温計・湿度計で客観的に確認する必要があること
  • 見守り機器・手すり・特殊寝台の背上げ機能など、福祉用具は「移動や体調管理の負担を減らす」形で熱中症対策の一部になり得ること
  • 夏場は汗や湿気による用具の劣化・床ずれリスクが高まるため、お手入れ頻度の見直しと事業所への相談が有効なこと

福祉用具そのものが熱中症を防いでくれるわけではありません。あくまで、気づきやすくする、負担を減らす、という形での備えです。まずは今日、ご自宅の室温計が何度を示しているか、一度確認してみてください。エアコンの設定温度や、水分補給の声かけのタイミングを見直すきっかけになるはずです。

その上で、見守り機器や手すりの追加、特殊寝台の設定見直しなど、介護保険の枠組みでできることがあるかもしれません。介護ようひんさーちの事業所検索から、営業エリアや取扱い品目で福祉用具貸与・特定福祉用具販売の指定事業所を探し、気になる点をまとめて相談してみることをおすすめします。

よくある質問

Q. 見守りセンサーは介護保険でレンタルできますか? A. 品目や機能によって異なります。認知症老人徘徊感知機器のように介護保険の対象となる品目もあれば、市販の見守り家電のように対象外のものもあります。要介護度や対象品目に該当するかは、ケアマネジャーや福祉用具専門相談員にご確認ください。

Q. エアコンが苦手な高齢者に、どう声をかければいいですか? A. 「もったいない」という感覚的な話ではなく、室温計の数値を見せながら「今日は◯度だから」と具体的な根拠で伝える方法が有効とされています。あわせて、扇風機やサーキュレーターで空気を循環させる、水分補給のタイミングを決めておくといった工夫も助けになります。

Q. 夏場だけ一時的に福祉用具を追加することはできますか? A. 状態やケアプランの内容によります。区分支給限度額の枠内であれば、季節に応じた品目の追加や見直しが可能な場合があります。担当のケアマネジャーや福祉用具専門相談員にご相談ください。