冬の入浴で心配な、暖かい部屋と寒い浴室の温度差による体調の急変は、福祉用具で防げるものではありません。消費者庁は、脱衣所と浴室を前もって暖める、湯温は41度以下・湯につかるのは10分までを目安にする、浴槽から急に立ち上がらない、といった入り方の工夫を呼びかけています。福祉用具が受け持つのは、洗い場で座る、浴槽をまたぐ、浴槽の中で立ち座りする、といった動作の支えです。介護保険の入浴補助用具は「購入」の品目で、浴室の寸法を測って選び、払い戻しの申請もあるため、寒さが本格的になる前に相談を始めておくと落ち着いて選べます。
「最近、お風呂から出てくるまでの時間が長い」「浴槽をまたぐとき、壁に手をついている」。離れて暮らす親のそんな様子に気づくのは、帰省や訪問が増える年末に向けた時期かもしれません。
この記事で整理すること:
- 冬の入浴で起きやすいことと、家の中でできる備え(消費者庁の呼びかけ)
- 入浴の動作ごとに、介護保険で使える入浴補助用具の種類
- 購入の品目である入浴補助用具を、寒くなる前に準備する段取り
冬の入浴では、何が起きやすい?
浴槽での溺水による死亡は65歳以上が約95%を占め、冬場を中心に多く発生しています。原因には、温度差による急な血圧の変動などが挙げられています。
消費者庁が2025年12月に公表した注意喚起によると、厚生労働省の人口動態統計(令和6年)で「浴槽内での及び浴槽への転落による溺死及び溺水」による死亡者は7,776人で、そのうち65歳以上が7,363人でした。65歳以上の交通事故による死亡者2,103人の3倍以上にあたります(消費者庁 年末年始、高齢者の事故に注意しましょう!)。同じ資料には、東京消防庁の集計として、溺れる事故で救急搬送される高齢者が冬場に増える傾向も載っています。
原因として挙げられているのは、暖かい居室と寒い脱衣所・浴室との温度差などによる急激な血圧の変動と、熱いお湯に長くつかることによる体温上昇での意識障害です。どちらも「入る前の環境」と「入り方」に関わる話で、浴室にどんな用具を置くかとは別に考える必要があります。
温度差への備えは、福祉用具でできる?
できません。温度差への備えは、脱衣所・浴室を暖めることと入浴の仕方の見直しで行います。福祉用具の役割は、その先の動作を支えることです。
消費者庁は、入浴の前と入浴中のポイントとして次のことを挙げています(消費者庁 冬季に多発する高齢者の入浴中の事故に御注意ください!と前述の資料)。
- 前もって脱衣所や浴室を暖め、部屋ごとの温度差は温度計で確かめる
- 湯温は41度以下、湯につかる時間は10分までを目安にする
- 入浴前に水分をとる。食後すぐ、飲酒後、薬を飲んだ後の入浴は避ける
- 浴槽から急に立ち上がらない
- 同居の家族に一声かけてから入る
このうち「浴槽から急に立ち上がらない」は、用具と関わりがあります。浴槽の縁につかまる場所がなく、底から一気に立たないと出られない浴室では、立ち上がりを途中で区切ることができません。浴槽用手すりや浴槽内椅子は、立ち上がる途中でつかまったり、座面を高くして立ち上がる距離を短くしたりするための用具です。体調の急変を防ぐものではなく、動作を分けてゆっくり行うための支えと考えてください。
入浴の動作ごとに、使える福祉用具は?
介護保険の入浴補助用具は、入浴用椅子・浴槽用手すり・浴槽内椅子・入浴台・浴室内すのこ・浴槽内すのこ・入浴用介助ベルトの7種類です。
厚生労働省の告示は、入浴補助用具を「座位の保持、浴槽への出入り等の入浴に際しての補助を目的とする用具」と定め、この7種類を挙げています(厚生労働大臣が定める特定福祉用具販売に係る特定福祉用具の種目)。入浴の流れに沿って並べると、次のようになります。
| 入浴の場面 | 困りごとの例 | 関わる用具 |
|---|---|---|
| 洗い場で体を洗う | 低い椅子から立ち上がれない、座っているとふらつく | 入浴用椅子(シャワーチェア) |
| 浴槽をまたぐ | 片足で立つ時間が不安 | 入浴台(浴槽の縁にかける台)、浴槽用手すり |
| 浴槽の中で座る・立つ | 底まで沈むと立ち上がれない | 浴槽内椅子、浴槽用手すり |
| 床と浴槽の高さ | 洗い場と脱衣所の段差、浴槽が深い | 浴室内すのこ、浴槽内すのこ |
| 家族が介助する | 支える場所がなく介助が不安定 | 入浴用介助ベルト |
どの用具が合うかは、浴槽の形や深さ、洗い場の広さ、ご本人がどの動作で困っているかで変わります。同じ「浴槽をまたげない」でも、座ったまま移れる入浴台が合う人もいれば、つかまる場所さえあれば立ってまたげる人もいます。シャワーチェアや入浴台を選ぶときの確認点は入浴補助用具・腰掛便座を購入するときの確認ポイントで、浴室の中で用具をどう組み合わせて置くかは浴室で福祉用具を使うときの確認ポイントで整理しています。
入浴補助用具はレンタルできる?
できません。入浴補助用具は介護保険では購入(特定福祉用具販売)の品目で、指定を受けた事業所から買い、購入費の支給を市区町村に申請します。
購入するときは、次の3点を先に確かめておきます。
- 指定を受けた事業所から買う: 介護保険の購入費の支給を受けられるのは、特定福祉用具販売の指定を受けた事業所から購入した場合です。ホームセンターや通販で買ったものは対象になりません
- 年度ごとの上限がある: 購入費の支給には4月から翌年3月までの年度ごとの上限があります。同じ年度に腰掛便座など他の品目も買う予定があれば、合わせて考えます。考え方は福祉用具の購入費、年度をまたぐとどうなる?で整理しています
- 支払いの方法: いったん全額を支払ってから自己負担分を除いた額の払い戻しを受ける償還払いが基本で、市区町村によっては自己負担分だけを支払う受領委任払いも使えます
浴室の手すりは、付け方によって扱いが分かれます。浴槽の縁に挟んで固定する浴槽用手すりは入浴補助用具(購入)、壁に工事をして取り付ける手すりは住宅改修、工事を伴わない置き型の手すりは福祉用具貸与(レンタル)の「手すり」です。工事をするかどうかの考え方は住宅改修と福祉用具の使い分けを参照してください。
なぜ寒くなる前に準備したほうがいい?
購入の用具は、浴槽や洗い場を測り、できれば試してから選ぶため、決まるまでに相談先との何度かのやりとりが必要になるからです。
レンタルなら合わなかったときに交換を相談できますが、購入した入浴補助用具は買い直しになります。そのため、選ぶまでの手順が少し長くなります。
- 家族で困っている動作を確かめる: 洗い場の立ち上がりか、浴槽をまたぐところか、浴槽の中か
- ケアマネジャーに相談する: 担当がいない場合は地域包括支援センターへ。住宅改修や通所のサービスも含めて、どこで支えるかを考えてもらえます
- 事業所の福祉用具専門相談員が浴室を見る: 浴槽の縁の高さと幅、浴槽の深さ、洗い場の広さを測り、候補を絞る
- 試してから決める: 試用できるかどうかは事業所に確認します。ご本人が実際に座る・またぐ動作をしてみると、高さや向きの合う・合わないが分かります
- 購入と申請: 領収書など申請に必要な書類は事業所や市区町村の案内で確認します
寒さが本格的になってから探し始めると、選んでいる間も不安なまま入浴を続けることになります。年末年始は事業所が休業する期間もあるため、連絡先と休業日はあわせて確かめておきます。休業中の連絡先の確かめ方は福祉用具が壊れたら?長期休業中(お盆・年末年始)の連絡先の確認と備えにまとめています。
家族は、入浴中に何を気にかければいい?
入浴していることを家族が知っておき、「時間が長い」「音が全くしない」「突然大きな音がした」ときは、ためらわずに声をかけることが勧められています。
消費者庁は、高齢者がいる家庭では入浴していることを気にかけておき、こうした異常を感じたら声をかけるよう呼びかけています。同居していれば、入る前の一声を家の決まりにしておくと、気にかけるきっかけが作れます。
離れて暮らしている場合は、帰省や訪問のときに次の点を見ておくと、ケアマネジャーや事業所に相談するときの材料になります。
- 脱衣所や浴室に暖房器具があるか。入浴は一日のどの時間帯か
- 浴槽をまたぐとき、どこに手をついているか
- 洗い場の椅子の高さ。立ち上がるときに勢いをつけていないか
- 入浴にかかる時間が以前より長くなっていないか
ご本人が入浴の様子を見られることに抵抗を感じる場合もあります。「最近お風呂はどう?」と困りごとを聞くところから始め、見せてもらう場面は本人の了解を得てからにします。家族の間で誰が何を確かめるかの分け方は遠方に住む家族が福祉用具選びに関わるには?きょうだいでの分担と伝え方も参考になります。
自宅の浴室での入浴そのものが難しくなってきた場合は、用具を足すだけでなく、ケアマネジャーに通所や訪問のサービスで入浴する方法も含めて相談します。
事業所に相談するときは、何を伝えればいい?
浴室の形と寸法、困っている動作、同じ年度に購入した用具の3つを伝えると、候補を絞ってもらいやすくなります。
- 浴槽の種類(床に置くタイプか、床に埋め込むタイプか)と、縁の高さ・幅、浴槽の深さ
- 洗い場の広さと、脱衣所との段差
- 困っている動作(座る・立つ・またぐ)と、介助する人がいるか
- 今年度(4月以降)にすでに購入した福祉用具があるか
- 浴室に手すりを付ける工事を考えているか
浴室の写真を撮っておくと、電話やメールでの相談でも状況が伝わりやすくなります。
入浴補助用具の購入を相談できる事業所は、介護ようひんさーちの事業所検索で住所を入れ、特定福祉用具販売の指定で絞り込むと探せます。営業エリアに自宅が入るかもあわせて確認できるので、寒くなる前の相談先選びに使ってください。
よくある質問
Q. 浴室暖房や脱衣所のヒーターは、介護保険で用意できますか? A. 暖房器具は福祉用具貸与・特定福祉用具販売の種目に含まれていません。住宅改修の対象も手すりの取付けや段差の解消などで、暖房設備の設置は含まれていません。
Q. ホームセンターで買ったシャワーチェアでも、購入費の払い戻しを受けられますか? A. 受けられません。介護保険の購入費の支給は、特定福祉用具販売の指定を受けた事業所から購入した場合が対象です。
Q. 浴槽用手すりと置き型の手すりは、どちらが向いていますか? A. 浴槽の縁の形や厚み、浴室の広さによって変わります。浴槽用手すりは縁に固定できる形かどうか、置き型の手すりは洗い場に置ける広さがあるかを、福祉用具専門相談員に確かめてもらってください。
Q. 要支援でも入浴補助用具は買えますか? A. 入浴補助用具は、要支援1・2の方も特定介護予防福祉用具販売として購入費の支給の対象になります。ケアプランを作っている地域包括支援センターやケアマネジャーに相談してください。

