引っ越し先が同じ市区町村なら、介護保険の認定はそのまま続き、福祉用具も事業所の営業エリア内であれば住所変更の連絡で使い続けられることが多いです。別の市区町村へ移る場合は、転出するときに「受給資格証明書」を受け取り、転入した日から14日以内に転入先の窓口で認定の申請をすると、それまでの要介護度を引き継げます。あわせて、転入先でケアマネジャーと福祉用具の事業所を決め直す段取りが必要になります。
離れて暮らす親を自宅の近くに呼び寄せる、実家を引き払って子どもの家で同居する、住み替えで隣の市へ移る。住まいが変わる場面では、引っ越しそのものの準備に追われて、介護保険や福祉用具の手続きが後回しになりがちです。けれども、今使っている介護ベッドや車いすをいつ返し、新しい家でいつから使えるのかは、引っ越し当日の生活に直結します。
この記事で整理すること:
- 同じ市区町村内の引っ越しと、市区町村をまたぐ転居とで、何が変わるか
- 市区町村をまたぐ場合に転入から14日以内にやること(受給資格証明書と認定の引き継ぎ)
- 旧居の事業所への返却と、新居の事業所での納品を、空白を作らずにつなぐ順番
同じ市区町村内の引っ越しなら、福祉用具はそのまま使える?
要介護認定はそのまま続きます。福祉用具は、新しい住所が今の事業所の営業エリア内なら、契約を続けたまま新居へ移せることが多いです。
同じ市区町村の中で住所が変わっても、介護保険の保険者(市区町村)は変わりません。住民票の異動にあわせて、介護保険の担当窓口で被保険者証の住所変更を届け出るのが基本です。届け出の方法や必要書類は市区町村によって異なるため、住民票の手続きをするときに窓口で確認します。
福祉用具のほうは、まず今の事業所に「いつ、どこへ引っ越すか」を伝えます。確認するのは次の2点です。
- 新しい住所が営業エリアに入っているか: 同じ市内でも、事業所が定める営業エリア(通常の事業の実施地域)から外れることがあります。営業エリアの確かめ方は福祉用具事業所の営業エリアに自宅が入るかの確認方法で整理しています
- 新居で同じ用具が使えるか: 介護ベッドが部屋に入るか、車いすで廊下や玄関を通れるかは、住まいによって変わります。福祉用具専門相談員に新居を見てもらい、用具の種類や置き場所を見直すきっかけにします
同じ市区町村内の引っ越しでも、新居の段差や部屋の広さに合わせて手すりやスロープの種類が変わることはあります。「借りているものをそのまま運ぶ」前提にせず、引っ越し前にケアマネジャーと福祉用具専門相談員へ伝えておくと、搬出と搬入の日程を合わせてもらいやすくなります。
別の市区町村へ引っ越すと、要介護認定はどうなる?
転出時に受け取る「受給資格証明書」を添えて、転入した日から14日以内に転入先で申請すれば、あらためて審査を受けずに今の要介護度を引き継げます。
市区町村をまたいで転居すると、介護保険の保険者が転入先の市区町村に変わります。このとき、それまでの認定を無駄にしないための仕組みが介護保険法第36条です。他の市町村で認定を受けていた人が、資格を取得した日から14日以内に、前の市町村が交付した認定の内容を証明する書面を添えて申請すれば、認定審査会の審査・判定を経ずに、その書面の内容に沿って認定できると定められています。
実際の手続きは、おおむね次の順番です。
- 転出する市区町村で: 転出届を出すときに介護保険の窓口で被保険者証を返し、「介護保険受給資格証明書」を受け取る
- 転入先の市区町村で: 転入届を出したら、転入した日から14日以内に、受給資格証明書を添えて要介護(要支援)認定を申請する
- 転入先から: 新しい被保険者証が交付される
江戸川区の案内でも、転出時は「介護保険被保険者証を返納し、『受給資格証明書』をお受け取りください」、転入時は転入した日から14日以内に申請する流れが示されています(江戸川区 介護保険 転入・転出(転居))。
14日を過ぎると、新規の申請として扱われます。 神戸市の案内では、期限に間に合わない場合は新規申請となり「認定の空白期間が生じるため、被保険者にとって不利益になります」と説明されています(神戸市 転入時に神戸市以外の認定を継続する場合)。新規申請では訪問調査や主治医意見書からやり直しになり、結果が出るまでに時間がかかります。厚生労働省が公表した2024年度申請分の集計では、申請から認定までの期間は全国平均で39.9日でした(厚生労働省 認定審査期間等の公表)。
引き継いだ認定の有効期間は、転入先の市区町村があらためて定めます。神戸市では原則として転入時から6か月としています。更新の時期が前の住所地とずれることがあるため、新しい被保険者証の有効期間を確認しておきます。
要介護認定を申請している途中で引っ越す場合も、申請中である旨を記載した証明書を交付する運用があります(上記の神戸市の案内)。申請中の転居は扱いが込み入るため、転出前に両方の市区町村の窓口に相談しておくと手戻りを防げます。
市区町村をまたぐと、ケアマネジャーと事業所も変わる?
変わることが多いです。福祉用具の貸与はケアプランに位置づけて使うため、転入先でケアマネジャーを決め、ケアプランを作り直してから新しい事業所と契約する流れになります。
介護保険で福祉用具を借りるには、ケアプラン(居宅サービス計画)に福祉用具貸与が位置づけられている必要があります。ケアマネジャーが所属する居宅介護支援事業所にも担当する地域があるため、遠方への転居では、転入先で居宅介護支援事業所を探し直すのが一般的です。要支援の方は、転入先の地域包括支援センターが相談先になります。
福祉用具の事業所も同じです。転入先の住所が今の事業所の営業エリアから外れる場合は、次のように切り替えます。
- 旧居の事業所: 解約を伝え、引き取りの日程を決める。返却の連絡先や精算の流れは福祉用具レンタルの返却・解約はどこに連絡する?手順と費用精算まとめを参照
- 新居の事業所: 転入先の住所を営業エリアに含む事業所を探し、転入先のケアマネジャーと相談して品目を決め、納品日を決める
隣の市への引っ越しなどで、新しい住所も今の事業所の営業エリアに入っているなら、事業所を変えずに続けられる場合もあります。この場合でも保険者とケアプランは切り替わるため、転入先のケアマネジャーと事業所の間で引き継いでもらう必要があります。事業所を変えるときの考え方は福祉用具の事業所を変えたい。ケアマネに言いにくいときの相談先と切り替えの流れでも整理しています。
返却と納品のあいだに、空白を作らない順番は?
転居日が決まった時点で転入先の事業所候補を探し始め、旧居での引き取り日と新居での納品日を先に並べておきます。
介護ベッドや車いすのように毎日使う用具は、1日使えないだけでも生活が止まります。引っ越しの準備と並行して、次の順番で段取りを組みます。
- 転居日が決まったら: 今のケアマネジャーと事業所に転居日と新住所を伝える。旧居で最後に使う日と、引き取りの日を決める
- 転居の2週間前ごろまでに: 転入先の住所で営業エリアに入る事業所を探し、候補を2〜3か所に絞る。転入先の地域包括支援センターに、居宅介護支援事業所の探し方も相談しておく
- 転入したら: 14日以内に受給資格証明書を添えて認定を申請し、転入先のケアマネジャーとケアプランの準備を始める
- 新居の事業所と: 新居の間取りを見てもらい、品目と納品日を決める。ベッドの置き場所や玄関の段差など、旧居と違う点を伝える
新しいケアプランが整うまでの数日をどう過ごすかは、ご本人の状態によって変わります。旧居での利用終了日と新居での利用開始日をどう設定するか、月の途中で切り替える場合の料金の扱いはどうなるかは、事業所ごとに取り決めがあるため、両方の事業所に見積もりの段階で確認します。
離れて住む家族が遠方から段取りをする場合は、転出側(親の住む市区町村)と転入側(家族の住む市区町村)の窓口に、どちらも電話で事前に確認しておくと、転出届の当日に受給資格証明書を受け取り忘れることを防げます。家族の役割分担の決め方は遠方に住む家族が福祉用具選びに関わるには?きょうだいでの分担と伝え方も参考になります。
老人ホームなどの施設へ移る場合も、同じ手続き?
特別養護老人ホームや有料老人ホームなど「住所地特例」の対象施設へ住所を移す場合は、元の市区町村が保険者のまま続くため、手続きが異なります。
住所地特例は、施設が多い市区町村に費用負担が集中しないように設けられた仕組みで、対象施設に入所して住所を移しても、それまでの市区町村の被保険者として扱われます(新宿区 転出・転入するときは)。江戸川区の案内でも、住所地特例施設への転出では個別の申請は不要で、区が保険者のままと説明されています。
どの施設が住所地特例の対象になるか、施設で使う福祉用具を介護保険で借りられるかは施設の種類によって変わります。施設への入居を考えている場合は、入居先と元の市区町村の窓口の両方に確認してください。
引っ越しの前に、家族で確認しておくこと
引っ越しで福祉用具の手続きが滞る原因の多くは、「誰が、いつ、どの窓口に連絡するか」が決まっていないことです。転居日が決まったら、次の項目を家族で分担しておくと進めやすくなります。
- 転出する市区町村の窓口で、被保険者証を返して受給資格証明書を受け取る人
- 転入した日から14日以内に、転入先で認定を申請する人と、その日付
- 旧居の事業所への解約連絡と、引き取り日の立ち会い
- 転入先で、ケアマネジャー(要支援なら地域包括支援センター)と福祉用具の事業所を探す人
福祉用具の購入(特定福祉用具販売)を年度内に予定している場合は、購入費の上限の扱いも転入先の窓口で確認しておきます。年度内の購入の考え方は福祉用具の購入費、年度をまたぐとどうなる?で整理しています。
転入先で相談できる福祉用具の事業所を探すときは、介護ようひんさーちの事業所検索で新しい住所を入れると、その地域を営業エリアに含む事業所を、福祉用具貸与・特定福祉用具販売の指定の種類とあわせて絞り込めます。転居日が決まった段階で候補を見ておくと、転入後の納品日の相談を早めに始められます。
よくある質問
Q. 受給資格証明書を受け取り忘れて引っ越してしまいました。どうすればよいですか? A. 転出した市区町村の介護保険の窓口に連絡し、交付の方法を相談してください。転入した日から14日以内という期限は変わらないため、早めに連絡します。
Q. 同じ市区町村内の引っ越しでも、事業所を変えることはありますか? A. あります。新しい住所が今の事業所の営業エリアから外れる場合は、エリア内の事業所に切り替えます。営業エリアに入っていれば、住所変更を伝えて続けられることが多いです。
Q. 14日を過ぎてしまったら、福祉用具は使えなくなりますか? A. 新規の申請として扱われ、認定が出るまで時間がかかります。認定の結果が出る前でも、暫定ケアプランを使って介護保険で借り始められる場合があります。考え方は要介護認定の結果待ちでも福祉用具は使える?で整理しています。
Q. 引っ越しを機に、借りる用具を見直してもよいですか? A. 見直してかまいません。新居の広さや段差によって、必要な用具やサイズが変わることがあります。転入先の福祉用具専門相談員に新居を確認してもらい、ケアマネジャーと相談して決めます。

