がんで回復が難しいと医師に言われ、自宅で過ごすことになったとき、介護ベッドなどの福祉用具は要介護認定の結果を待たずに介護保険で借り始められます。申請したあと、ケアマネジャーが暫定のケアプランを作れば、認定の前からレンタルを始められるためです。40〜64歳でも、がんは介護保険の特定疾病なので対象になります。認定の結果が要支援や要介護1でも、状態が急に悪くなると医師が判断していれば、市区町村の確認を経て介護ベッドを借りられる例外があります。
「退院して家に帰りたいと本人が言っている。でもベッドも車いすもない」「認定に1か月かかると聞いたが、そんなに待てる気がしない」——がんの在宅療養が決まった家族からは、こうした相談がよく寄せられます。時間の余裕がない中で、制度の仕組みを一から調べるのは負担が大きいものです。
先に、要点をまとめます。
- 介護保険の申請をすれば、認定の結果が出る前でも暫定ケアプランで福祉用具のレンタルを始められる。厚生労働省は、末期がん等で急ぐ場合は暫定ケアプランの作成と迅速な認定を徹底するよう市区町村に求めている
- 40〜64歳でも、がんは介護保険の特定疾病。申請書には「末期がん」と書く必要はなく、「がん」と書けばよい
- 要支援1・2や要介護1と判定されても、がんの急速な状態悪化などで医師の所見があり、ケアマネジメントで必要と判断されれば、介護ベッドなどを介護保険で借りられる(市区町村が書面で確認)
- 認定の前に亡くなったり、非該当になったりすると、暫定で使った分が自己負担になることがある。一部の市区町村には、その費用を補助する事業がある。40歳未満の方向けの助成を設けている自治体もある
ここから、厚生労働省の事務連絡と自治体の案内をもとに、順番に整理します。
がんで自宅療養を始めるとき、介護保険の福祉用具はいつから使える?
介護保険の申請をした日から使えます。認定の結果が出る前でも、ケアマネジャーが暫定ケアプランを作れば、介護ベッドなどのレンタルを始められます。
要介護認定は、申請のあった日にさかのぼって効力が生じる仕組みです(介護保険法第27条第8項)。そのため、申請後に結果を待つ間も、見込みの要介護度で暫定ケアプランを作り、サービスを始めることができます。
厚生労働省は平成22年4月30日の事務連絡「末期がん等の方への要介護認定等における留意事項について」で、末期がん等の方は心身の状況に応じて迅速にサービスが必要になる場合があるとして、市区町村に次の対応を求めています。
- 急を要する場合は、認定の結果が出る前でも暫定ケアプランを作ってサービスを始める
- 申請を受けた日のうちに認定調査を行い、直近の介護認定審査会で判定するなど、迅速に認定する(一部の保険者で行われている取り組みとして紹介)
- 入院中から、ケアマネジャーと医療機関が連携して退院後のサービスを調整する
認定にかかる日数は市区町村によって違います。申請の窓口で「がんで、急いで在宅の準備をしたい」と事情を伝えると、調査の日程や暫定ケアプランの進め方を案内してもらいやすくなります。認定結果を待つ間の利用全般については、要介護認定の結果待ちでも福祉用具は使える?暫定利用と自費レンタルという2つの道で詳しく説明しています。
65歳未満でも、介護保険で介護ベッドを借りられる?
40〜64歳の方は、がんが介護保険の特定疾病にあたるため借りられます。40歳未満の方は介護保険の対象外で、市区町村の別の助成を確認します。
40〜64歳の医療保険に加入している方(第2号被保険者)は、特定疾病が原因で介護が必要になった場合に介護保険を使えます。がん(医師が一般に認められている医学的知見に基づき回復の見込みがない状態に至ったと判断したもの)は、この特定疾病の一つです。
申請書の書き方について、厚生労働省は平成31年2月19日の事務連絡「がん患者に係る要介護認定等の申請に当たっての特定疾病の記載等について」で、特定疾病の欄は「末期がん」「がん末期」と書かなくても、単に「がん」と書いた申請を受理してよいとしています。窓口で確認する場合も、本人や家族の心情に配慮し、介護保険サービスを使える状態であることを主治医に確認したかどうかを聞く程度にとどめるよう求めています。「末期」と書くことにためらいがあっても、申請はできます。
40歳未満の方は介護保険の対象になりません。その代わり、在宅療養に必要な福祉用具の貸与や購入の費用を助成する事業を設けている自治体があります。たとえば仙台市の「若年がん患者在宅療養支援事業」は、医師が回復の見込みがないと判断した40歳未満のがん患者を対象に、車いすや特殊寝台などの福祉用具貸与、腰掛便座などの購入、訪問介護などの費用を助成しています。事業の有無や名称、対象年齢は自治体ごとに違うため、住んでいる市区町村の保健・がん対策の担当課に確認してください。
要支援や要介護1と判定されたら、介護ベッドは借りられない?
原則は借りられませんが、がんの急速な状態悪化などで短期間のうちに寝返りや起き上がりが難しくなると医師が判断し、ケアマネジメントで必要とされた場合は、市区町村の確認を経て借りられます。
要支援1・2と要介護1の方は、介護ベッド(特殊寝台)とその付属品、床ずれ防止用具、体位変換器、車いすとその付属品、移動用リフトなどを、原則として介護保険で借りられません。体の状態から使う場面が想定しにくい、という考え方によるものです。
ただし、厚生労働省の解釈通知(平成12年老企第36号)は、医師の医学的な所見に基づいて次のいずれかにあたると判断され、サービス担当者会議などで福祉用具貸与が特に必要と判断された場合は、市区町村が書面などで確認したうえで認められるとしています。
- 状態が変わりやすく、日によって、または時間帯によって、頻繁に寝返りなどが難しくなる
- 疾病その他の原因で状態が急速に悪化し、短期間のうちに日常的に寝返りなどが難しくなることが確実に見込まれる(例として「がん末期の急速な状態悪化」が挙げられている)
- 疾病その他の原因で、身体への重大な危険性や症状の重篤化を避ける医学的な必要がある
がんの場合は2つ目が当てはまる場面が多く、厚生労働省は平成22年10月25日の事務連絡「末期がん等の方への福祉用具貸与の取扱等について」で、この取り扱いをあらためて市区町村に伝えています。同じ事務連絡では、介護認定審査会が状態の急速な悪化が見込まれる方について市区町村に意見を付けることも、必要に応じて活用するよう求めています。
医師の所見は、主治医意見書のほか、医師の診断書や、ケアマネジャーが医師から聞き取ってケアプランに書いた所見で確認してもよいとされています。家族ができるのは、主治医に在宅での様子を伝え、介護ベッドが必要になる見通しをケアマネジャーと共有してもらうことです。例外給付の一般的な手順は、要介護1でも介護ベッドは借りられる?——例外給付の2つの判断経路と相談の進め方で説明しています。
認定の前に借りた分は、あとでどう扱われる?
認定されれば、申請日以降の分は介護保険の対象になります。認定の前に亡くなった場合や非該当になった場合は自己負担になることがあり、その費用を補助する市区町村もあります。
暫定ケアプランで始めたレンタルは、認定の結果が出てから介護保険で精算されます。結果が見込みより軽く、使った用具が対象外の品目だった場合や、区分支給限度額を超えた場合は、その分が自己負担になります。
がんの在宅療養では、認定調査の前に亡くなり、認定に至らないことがあります。神戸市の「がん在宅介護支援事業のご案内」は、新規に申請したあと認定調査の前に亡くなったため介護保険の対象とならなかった末期がんの方について、暫定ケアプランで使った福祉用具貸与や特定福祉用具の購入などの費用の一部を、家族などに助成するとしています。静岡市の「がん末期在宅介護支援事業補助金」は、認定の結果が非該当だった方や認定調査の前に亡くなった方を対象に、介護ベッドとその付属品の貸与などの費用を補助しています(市民税非課税などの要件があります)。
こうした事業がない自治体もあります。暫定で始める前に、次の2点を確かめておくと、あとで慌てずに済みます。
- 自己負担になった場合のレンタル料はいくらか(福祉用具の事業所に確認)
- 認定前に亡くなったときなどに使える補助があるか(市区町村の介護保険の窓口に確認)
状態が変わったら、用具はどう見直せばいい?
用具が合わなくなったら、事業所かケアマネジャーにすぐ連絡します。要介護度が実態に合わなくなった場合は、区分変更の申請も検討します。
がんの在宅療養では、短い期間で体の状態が変わることがあります。最初は手すりや歩行補助つえで足りていても、数週間で介護ベッドや車いすが必要になる、寝ている時間が長くなって床ずれ防止用具が必要になる、といった変化です。
レンタルの利点は、状態に合わせて交換できることです。用具の見直しが必要になったら、事業所(福祉用具専門相談員)かケアマネジャーに連絡すれば、品目の追加や機種の交換を相談できます。交換を相談するときの流れは福祉用具レンタルを変更するタイミングにまとめています。
用具が増えて区分支給限度額が足りなくなる、例外給付の対象外の品目が必要になる、といった場合は、要介護度の見直し(区分変更の申請)をケアマネジャーと相談します。介護ベッドを置く部屋を決めるときは、介助する人が両側に立てるかなど、介護ベッドを置く部屋の広さと配置の確認項目も参考になります。
誰に、どの順番で相談すればいい?
入院中なら病院の相談窓口、自宅にいるなら市区町村の介護保険の窓口か地域包括支援センターに、がんで急いで在宅の準備をしたいと伝えるところから始めます。
時間の余裕がないときほど、窓口を一つずつ回るより、事情を一度に伝えて段取りを任せるほうが進みます。目安の順番は次のとおりです。
- 入院中なら、病院の医療相談室(地域連携の窓口)に退院後の生活の相談をする。自宅にいるなら、地域包括支援センターか市区町村の介護保険の窓口に連絡する
- 要介護認定を申請する(40〜64歳の方は、特定疾病の欄に「がん」と書く)
- ケアマネジャー(要支援の見込みなら地域包括支援センターなど)に、暫定ケアプランでの開始を相談する
- 主治医に在宅での様子を伝え、介護ベッドなどが必要になる見通しを、ケアマネジャーと共有してもらう
- 福祉用具の事業所を決め、用具の選定と搬入の日程を決める
退院に合わせて準備を進めるときの段取りは、退院してすぐ困らないために。福祉用具は入院中からどう準備を始めるかでも整理しています。
この記事で持ち帰れること
- がんで在宅療養を始めるときは、介護保険を申請すれば、暫定ケアプランで認定の前から介護ベッドなどを借り始められる。40〜64歳でも、がんは特定疾病で対象になり、申請書には「がん」と書けばよい
- 要支援や要介護1と判定されても、急速な状態悪化の見込みを医師が判断し、ケアマネジメントで必要とされれば、市区町村の確認を経て介護ベッドを借りられる
- 認定の前に亡くなった場合や非該当の場合は自己負担になることがある。補助の有無と、自己負担になった場合の金額は、始める前に確かめておく。40歳未満の方は、自治体の若年がん患者向けの助成を確認する
退院の日や自宅に戻る日が見えてきたら、介護ベッドを置く部屋と、申請の窓口を先に決めておくと準備が進みます。福祉用具の事業所を探すときは、介護ようひんさーちの事業所検索で自宅の住所を入れると、営業エリアに入る福祉用具貸与の指定事業所を絞り込めます。急ぎの事情は、問い合わせの時点で事業所に伝えてください。
よくある質問
Q. 介護保険の申請をする前から、介護ベッドを借りることはできますか? A. 申請前は介護保険を使えないため、借りるなら全額自己負担の自費レンタルになります。介護保険を使いたい場合は、まず申請をして、暫定ケアプランでの開始をケアマネジャーに相談してください。
Q. 要支援と判定されましたが、もう起き上がるのが難しくなっています。どうすればいいですか? A. 要支援でも、医師の所見とケアマネジメントで必要と判断され、市区町村が確認すれば、介護ベッドを借りられる例外があります。あわせて、いまの状態に合った要介護度にするため、区分変更の申請もケアマネジャーと相談してください。
Q. 申請書の特定疾病の欄に「末期がん」と書かないといけませんか? A. 書かなくて構いません。厚生労働省の事務連絡で、「がん」とだけ書いた申請も受理してよいとされています。

