この夏の帰省で、久しぶりに会った親の歩き方や立ち上がりに「あれ?」と感じた方は少なくないと思います。手すりや歩行器があった方がよさそうだと思い立ち(店頭で見かける「シルバーカー」との違いが気になる方はシルバーカーは介護保険でレンタルできる?歩行器との違いと選び方で先に整理しておくのもおすすめです)、介護保険のことを調べ始めると、多くの方が最初の壁にぶつかります。「要介護認定の結果が出るまで、福祉用具は使えないのだろうか」という疑問です。
先に、要点をまとめます。
- 要介護認定の結果が出る前でも、暫定ケアプランという仕組みを使えば、申請直後から介護保険で福祉用具のレンタルを始められる
- 申請前の段階や、申請するかどうか迷っている段階でも、全額自己負担の自費(保険外)レンタルに対応している事業所がある
- 認定の申請と福祉用具の相談は、どちらかを待つ必要はなく、並行して進めてよい
ただし、認定結果が出る前に介護保険でレンタルを始める場合には、結果次第で費用の扱いが変わるという注意点が1つあります。これについては後半で詳しく説明します。
要介護認定の結果が出るまで、どのくらいかかる?
法律上は申請から30日以内に結果を出すことになっていますが、実際には全国平均で約40日かかっているという国の集計があります。
要介護認定は、お住まいの市区町村の介護保険窓口に申請し、認定調査員による訪問調査と主治医意見書をもとに審査されます。介護保険法では、申請に対する処分は申請のあった日から30日以内に行うこととされています。ところが、厚生労働省が社会保障審議会介護保険部会に示した集計では、2023年度の認定にかかった期間は全国平均で約40日と、法律の想定を上回っているのが実情です。国は市町村ごとの実績を公表し、期間短縮に向けた取り組みを進めていますが、地域や時期によっては1か月半近くかかることもあります。
申請の手続きそのものは、ご本人に代わってご家族が行うこともできますし、地域包括支援センターに申請の支援を頼むこともできます(厚生労働省 要介護認定)。
問題は、この待ち時間です。夏の暑さで体力が落ちている、退院の日が迫っている、転倒が続いている——そんな状況で「結果が出るまで1か月以上、何もできない」となると、その間の生活が心配になります。帰省をきっかけに申請を決めたご家族であれば、なおさら「離れて暮らす親の家に、早く手すりや歩行器を入れたい」と感じるのではないでしょうか。
結果待ちの間でも、介護保険で福祉用具を借りられる?
借りられます。要介護認定の効力は申請日に遡って生じるため、暫定ケアプランを作成すれば、結果を待たずに介護保険でのレンタルを始められます。
介護保険法第27条には、要介護認定は「その申請のあった日にさかのぼってその効力を生ずる」と定められています。つまり、申請から結果が出るまでの期間も、後から振り返れば「認定されていた期間」として扱われる仕組みです。この仕組みを前提に、認定結果が出る前からサービスを使い始めたい場合に作成されるのが「暫定ケアプラン」です。
進め方の流れは、おおよそ次のようになります。
- 市区町村の窓口で要介護認定を申請する
- 要介護になりそうか、要支援になりそうかの見込みに応じて、ケアマネジャー(居宅介護支援事業所)または地域包括支援センターに相談し、暫定ケアプランを作成してもらう
- 暫定ケアプランに福祉用具貸与を位置づけ、福祉用具専門相談員が自宅を訪問して品目を選定・納品する
- 認定結果が出たら、結果に応じて正式なケアプランへ移行する
暫定ケアプランの運用の詳細は市区町村によって異なるため、実際に使う場合は窓口や地域包括支援センターで確認しながら進めることになります。大切なのは、「認定結果が出るまで動けない」わけではない、と知っておくことです。福祉用具の利用全体の流れは福祉用具の利用の流れガイドでも解説しています。
退院に向けた準備で時間がない場合は、入院中から病院の相談窓口やケアマネジャーと段取りを進めておく方法もあります。詳しくは退院前の福祉用具準備のコラムをご覧ください。ご自身の状況が「退院が迫っている」「独居で転倒が心配」といったケースに当てはまるなら、暫定利用は検討する価値のある選択肢です。
暫定利用の注意点は?認定結果が想定と違ったらどうなる?
認定結果が非該当だった場合や、想定より軽い要介護度だった場合には、レンタル費用の全部または一部が自己負担になることがあります。
冒頭で触れた注意点が、これです。暫定ケアプランは「おそらくこのくらいの要介護度になるだろう」という見込みで作られます。ところが、実際の認定結果がその見込みと違った場合、次のようなことが起こり得ます。
- 非該当(自立)と判定された場合: 介護保険の給付そのものが受けられないため、暫定期間中に使ったレンタル費用は全額自己負担になります
- 想定より軽い要介護度だった場合: 区分支給限度額(介護保険で使える月ごとの上限枠)が想定より小さくなり、枠を超えた分が全額自己負担になることがあります
- 軽度の認定で対象外品目を使っていた場合: 要支援1・2や要介護1では、車いすや特殊寝台(介護ベッド)など一部の品目が原則として保険給付の対象外です。暫定期間中にこれらを借りていて認定が軽度だった場合、扱いの見直しが必要になります
3つ目の軽度者制限には、医師の意見などをもとに市区町村が例外的に給付を認める仕組みもあります。詳しくは軽度者の福祉用具レンタル制限ガイドで解説しています。なかでも特殊寝台(介護ベッド)の例外給付は、基本調査の結果だけで判断できる経路と、医師の所見・サービス担当者会議による経路の2つに分かれます。要介護1でも介護ベッドは借りられる?——例外給付の2つの判断経路と相談の進め方で詳しく整理しています。
こうしたリスクがあるため、暫定利用を始める前に、ケアマネジャーや福祉用具専門相談員と「認定結果が想定より軽かった場合、費用や品目はどうなるか」を必ず確認しておいてください。見込みに迷いがあるケースでは、最初は手すりや歩行器など軽度でも対象になる品目から始めて、認定結果が出てからベッドなどの大きな品目を検討する、という段階的な進め方が取られることもあります。ご本人の状態が申請前から大きく変わっていないのであれば、結果を待ってから選ぶという判断も含めて、担当者と相談しながら決めていくのが現実的です。
申請前や、申請するかどうか迷っている段階では?
介護保険を使わない自費(保険外)レンタルなら、認定の有無に関係なく福祉用具を借りられます。対応する事業所と直接契約する形で、費用は全額自己負担です。
「まだ申請するほどではない気がする」「本人が申請に乗り気でない」「帰省中の数週間だけ使いたい」——そんな段階では、介護保険を使わない自費レンタルという選択肢があります。福祉用具貸与の指定を受けている事業所のなかには、保険外の自費レンタルにあわせて対応しているところがあり、要介護認定を受けていない方でも借りることができます。
自費レンタルを検討するときに知っておきたいのは、次の3点です。
- 費用は全額自己負担: 介護保険の1〜3割負担は適用されません。料金は事業所と品目によって異なるため、見積もりで確認します
- 後から払い戻されない: 自費で借りていた期間の費用が、認定後に遡って介護保険から払い戻されることは基本的にありません。長く使うことが見えているなら、申請と暫定利用の検討を並行した方がよい場合があります
- 事業所によって対応範囲が異なる: 自費レンタルの取扱品目や条件は事業所ごとに違うため、問い合わせ時に「自費での利用を検討している」と伝えて確認します。あわせて、休業期間中の緊急連絡体制についても確認しておくと、契約直後の長期休業(お盆・年末年始等)でも慌てずに済みます。休業前に確認しておきたいポイントは福祉用具が壊れたら?長期休業中の連絡先の確認と備えで整理しています
自費レンタルは「保険が使えないから仕方なく」というだけの位置づけではありません。申請するかどうかをじっくり考えたい期間のつなぎとして、あるいは介護保険の対象にならない場面(短期間だけの利用など)の手段として、使いどころのある仕組みです。契約前に確認したいポイントは自費で福祉用具をレンタルするときの確認ポイントガイドにまとめています。ご本人がまだ「介護」という言葉に抵抗があるご家庭では、本人が福祉用具を嫌がるときのコラムも参考になるかもしれません。
どこに相談すれば、話が早く進む?
認定の申請は市区町村の介護保険窓口か地域包括支援センターへ。福祉用具そのものの相談は、福祉用具貸与・販売の指定事業所にいる福祉用具専門相談員にできます。
ここまでの内容を整理すると、相談先は大きく2つに分かれます。制度の入口(申請・ケアプラン)は市区町村の窓口・地域包括支援センター・ケアマネジャー、用具そのもの(品目選び・自宅への適合・自費対応)は事業所の福祉用具専門相談員です。
大切なのは、この2つを順番待ちにしないことです。「認定が出てから事業所を探そう」と考えがちですが、実際には申請と並行して事業所に相談を始めて構いません。むしろ、暫定利用にせよ自費レンタルにせよ、早い段階で事業所と接点を作っておくことで、認定結果が出た後の切り替えもスムーズになります。
事業所を探すときは、次の3点を目安にすると絞り込みやすくなります。
- 営業エリア: ご本人の自宅(帰省先の実家など)が営業エリアに入っているか。離れて暮らすご家族が探す場合は特に重要です
- 指定の種類: 福祉用具貸与の指定、特定福祉用具販売の指定のどちらを受けているか(両方の事業所もあります)
- 自費レンタルへの対応: 認定前から使いたい場合は、保険外レンタルに対応しているかを問い合わせ時に確認します
この記事で持ち帰れること
- 認定の結果待ち期間の目安(法律上は30日以内、実際は平均約40日)と、その間に福祉用具を使い始める2つの道(暫定ケアプラン・自費レンタル)の使い分け
- 暫定利用で自己負担が生じるのはどんな場合か(非該当・想定より軽い認定・軽度者の対象外品目)、そして事前にケアマネジャーと何を確認すべきか
- 認定の申請と事業所への相談は順番待ちにせず、並行して進めてよいという段取りの考え方
「結果が出るまで何もできない」と思い込んで1か月以上を待つのと、選択肢を知ったうえで動くのとでは、その間の安心感が変わってきます。制度は複雑に見えますが、相談先さえ押さえれば、あとは専門職が一緒に考えてくれます。
まずは今日、ご本人の困っている動作を1つ(たとえば「布団からの立ち上がり」「玄関の段差」)と、要介護認定を申請済みかどうかをメモに書き出してみてください。窓口や事業所に相談するとき、この2つが伝えられるだけで話が具体的に進みやすくなります。
そのうえで、実家の近くで相談できる事業所を探すなら、介護ようひんさーちの事業所検索をご活用ください。営業エリアや取扱い品目、福祉用具貸与・特定福祉用具販売の指定の種類で絞り込めるので、「認定はまだだが相談したい」という段階でも、問い合わせ先の候補を見つけられます。
よくある質問
Q. 入院中でも要介護認定を申請できますか? A. できます。ご家族が代わりに申請でき、病院の医療ソーシャルワーカーや地域包括支援センターに支援を頼むこともできます。退院前に申請しておくと、退院直後から暫定ケアプランでのレンタルを検討しやすくなります。
Q. 暫定ケアプランは誰に頼めば作ってもらえますか? A. 要介護になりそうな見込みなら居宅介護支援事業所のケアマネジャー、要支援になりそうな見込みなら地域包括支援センターが相談先になります。どちらか分からない場合は、まず地域包括支援センターに相談すれば案内してもらえます。
Q. 自費レンタルで借りた分は、認定が出たら払い戻されますか? A. 自費で借りていた期間の費用が、遡って介護保険から払い戻されることは基本的にありません。認定後は保険でのレンタルに切り替えられるか、事業所とケアマネジャーに相談してください。
Q. 認定結果を待ってから福祉用具を選んだ方がよい場合もありますか? A. あります。転倒の不安や退院などの事情がなく、生活が当面成り立っているなら、結果を待って区分支給限度額や対象品目を確定させてから選ぶ方が、費用の見通しを立てやすくなります。急ぐ事情があるかどうかを軸に、ケアマネジャーや福祉用具専門相談員と相談して決めるのが現実的です。

